シリーズ:実験シリーズ(フェーズ3)
対応ロードマップ:フェーズ3 / E3-06
この記事で扱う範囲:E3-05 でIMU値のズレを補正する考え方を確認しました。今回は、IMUの加速度X/Y/Zを使って、ボードの傾きである ピッチ角 と ロール角 を計算し、UARTログに表示します。
1. 目的
今回は、IMUの加速度値から ピッチ角 と ロール角 を計算します。
E3-04では、IMUから加速度3軸とジャイロ3軸の生値を読みました。
E3-05では、静止時のズレを平均して引く、簡易オフセット補正を行いました。
今回は、その次のステップとして、加速度の値を使って、
- ボードが前後に傾いているか
- ボードが左右に傾いているか
を数値で見えるようにします。
今回のゴールは、正確な姿勢推定ではありません。
まずは、
- 加速度には重力の向きが含まれている
- 重力の向きから傾きが分かる
- 傾きを角度としてログに出せる
という流れを体験することです。
2. 前提・環境
2-1. 前提
この記事は、次の内容が終わっている前提で進めます。
- フェーズ0:ビルド / 書き込み / main到達 / UARTログ出力
- E2-02:1msごとの時刻を作る
- E2-03:周期処理
- E2-05:状態で整理(IDLE / RUN / ERROR)
- E3-00:I2C配線の“詰まりどころ”を先に潰す
- E3-01:0x68 に対して応答があるか確認する
- E3-02:WHO_AM_I を1バイト読める
- E3-03:加速度X軸を2バイト連続で読める
- E3-04:加速度3軸とジャイロ3軸の生値を周期的に読める
- E3-05:静止時のズレを平均して引く考え方を確認している
2-2. 使用するもの
- 評価ボード:RTK7EKA8M2S00001BE
- e² studio + FSP
- Tera Term
- IMUモジュール:QCIOT-ICM42688P(PMOD BOARD ICM-42688-P)
- USB-UART変換ケーブル(またはUSB-UART変換モジュール)
- ジャンパ線(UART接続用)
2-3. 今回の前提条件
接続条件は、E3-04 / E3-05 と同じ下記の条件です。
- 通信方式:I2C
- 接続方法:QCIOT-ICM42688P の J1 を評価ボードの Pmod1(J26)へ接続
- 評価ボード側設定:SW4-1 = OFF、SW4-2 = ON
- AD0:Low(J4 にジャンパキャップあり)
- I2Cアドレス:0x68
- I2C通信速度:100kHz
2-4. 今回使うレジスタ
今回は、加速度X/Y/Zを使います。
ただし、コードは E3-04 / E3-05 と同じように、0x1F から 0x2A までの12バイトを読みます。
| データ | 上位バイト | 下位バイト |
|---|---|---|
| 加速度X | ACCEL_DATA_X1 = 0x1F | ACCEL_DATA_X0 = 0x20 |
| 加速度Y | ACCEL_DATA_Y1 = 0x21 | ACCEL_DATA_Y0 = 0x22 |
| 加速度Z | ACCEL_DATA_Z1 = 0x23 | ACCEL_DATA_Z0 = 0x24 |
| ジャイロX | GYRO_DATA_X1 = 0x25 | GYRO_DATA_X0 = 0x26 |
| ジャイロY | GYRO_DATA_Y1 = 0x27 | GYRO_DATA_Y0 = 0x28 |
| ジャイロZ | GYRO_DATA_Z1 = 0x29 | GYRO_DATA_Z0 = 0x2A |
今回のピッチ/ロール計算では、主に次の3つを使います。
accel_xaccel_yaccel_z
ジャイロ値は、今回の角度計算には使いません。
ジャイロを使った姿勢推定や、加速度とジャイロを組み合わせる処理は、もう少し後の段階で扱います。
3. 今回の変更点
3-1. 配線変更
今回は配線変更はありません。
E3-04 / E3-05 と同じ下記内容です。
- QCIOT-ICM42688P の J1 を評価ボードの Pmod1(J26)へ接続
- 評価ボード側は SW4-1 = OFF、SW4-2 = ON
- J4 にジャンパキャップあり
3-2. 設定変更
FSP の I2C Master 設定は、E3-04 / E3-05 と同じです。
- 通信方式:I2C Master
- アドレス幅:7bit
- 通信速度:100kHz
- スレーブアドレス:0x68
- Callback:
i2c_master_callback
3-3. コード変更
今回は、E3-04 / E3-05 のコードに、次の処理を追加します。
- 加速度X/Y/Zを読み取る
- 加速度X/Y/Zからピッチ角を計算する
- 加速度X/Y/Zからロール角を計算する
- ピッチ角とロール角をUARTログに出す
今回の中心は、次の考え方です。
加速度X/Y/Zに含まれる重力の向きから、ボードの傾きを計算する
E3-05では、加速度の補正に注意が必要と説明しました。
理由は、加速度には静止時でも 重力 が入るためです。
今回は、その重力を邪魔なものとして消すのではなく、
重力の向きを利用して傾きを求める 方向に進みます。
4. ピッチ/ロールとは何か
4-1. ロールとは
ロールは、ざっくり言うと 左右方向の傾き です。
たとえば、評価ボードを机の上に置いた状態から、
- 左側を持ち上げる
- 右側を持ち上げる
ように傾けたときに変わる角度を、この記事ではロールとして扱います。
4-2. ピッチとは
ピッチは、ざっくり言うと 前後方向の傾き です。
たとえば、評価ボードを机の上に置いた状態から、
- 手前側を持ち上げる
- 奥側を持ち上げる
ように傾けたときに変わる角度を、この記事ではピッチとして扱います。
4-3. 軸の向きはボードの置き方で見え方が変わる
ここで注意があります。
ピッチ/ロールの符号や、どちらに傾けたときにプラスになるかは、
- IMUモジュールの向き
- 評価ボードへの取り付け向き
- 自分が「前」と決めた向き
によって変わります。
そのため、この記事では最初から厳密な向きを決めすぎません。
まずは、
- 前後に傾けたら
PITCHが大きく変わる - 左右に傾けたら
ROLLが大きく変わる - 水平に戻すと、だいたい0付近に戻る
という見方で確認します。
5. 計算の考え方
5-1. 加速度には重力が入っている
ボードを静止させていても、加速度センサの値は0になりません。
たとえば、机の上に置いたときに次のような値になることがあります。
ACC X= -120 Y= 340 Z= 16320
この Z=16320 のような値は、異常ではありません。
ボードの置き方によって、Z軸方向に重力が見えているためです。
つまり、加速度センサは静止中でも、
今、重力がどの軸方向に見えているか
を教えてくれます。
この重力の見え方を使うと、ボードの傾きを計算できます。
5-2. 今回使う式
今回は、次の式でピッチ角とロール角を計算します。
roll = atan2f(accel_y, accel_z) * 180.0f / PI;pitch = atan2f(-accel_x, sqrtf(accel_y * accel_y + accel_z * accel_z)) * 180.0f / PI;難しく見えますが、最初は次の理解で大丈夫です。
atan2f():比率から角度を求める関数sqrtf():平方根を求める関数180.0f / PI:ラジアンを度に変換するための係数
atan2f() が返す角度は、最初はラジアンという単位です。
Tera Termに表示するときは、見やすいように 度(deg) に変換します。
5-3. なぜg単位に変換しなくても計算できるのか
加速度センサの値は、本来は設定に応じて g などの単位に変換できます。
ただし今回のピッチ/ロール計算では、加速度の 比率 を使います。
たとえば、すべての軸の値を同じ倍率で変換するだけなら、角度の計算結果は大きく変わりません。
そのため今回は、初心者向けの最小実装として、
生値のままピッチ/ロールを計算します。
もちろん、将来的には、
- センサのレンジ設定
- LSB/g
- 単位変換
- オフセット補正
- フィルタ処理
を整理した方がよいです。
ただし今回は、姿勢の数値化を体験することを優先します。
6. 手順
6-1. E3-04 / E3-05 と同じ条件で接続する
まず、これまでと同じ条件で、QCIOT-ICM42688P と評価ボードを接続します。
- QCIOT-ICM42688P の J1 を評価ボードの Pmod1(J26)へ接続
- SW4-1 = OFF
- SW4-2 = ON
- J4 にジャンパキャップあり
6-2. プログラムを書き込む
今回のコードを書き込みます。
コードの中心は、次の3つです。
imu_read_raw_data()
加速度3軸とジャイロ3軸を読むimu_calc_pitch_roll()
加速度X/Y/Zからピッチ/ロールを計算するprint_imu_angle_data()
加速度とピッチ/ロールをログに出す
6-3. Tera Termを開く
E3-04 / E3-05 と同じように、Tera TermでUARTログを確認します。
通信条件は、自分のプロジェクト設定に合わせます。
これまでの実験と同じ設定でログが出ていれば、そのままで問題ありません。
6-4. ボードを水平に置いてログを見る
まず、評価ボードを机の上に静かに置きます。
水平に近い状態で、次のようなログが出ることを確認します。
ACC X= -120 Y= 340 Z= 16320 | PITCH= 0.4 deg ROLL= 1.2 deg完全に0になる必要はありません。
机の傾き、ボードの取り付け向き、センサの個体差で少しズレます。
6-5. 前後に傾ける
次に、ボードをゆっくり前後に傾けます。
このとき、PITCH の値が大きく変わればOKです。
ACC X= 5200 Y= 200 Z= 15400 | PITCH= -18.7 deg ROLL= 0.7 deg6-6. 左右に傾ける
次に、ボードをゆっくり左右に傾けます。
このとき、ROLL の値が大きく変わればOKです。
ACC X= -100 Y= -6200 Z= 15000 | PITCH= 0.4 deg ROLL= -22.5 deg7. コード
※下記は考え方を分かりやすくするためのシンプルな例です。
※ I2Cインスタンス名、UARTインスタンス名、コールバック名は、自分のプロジェクトに合わせて置き換えてください。
※ FSPの設定や使用しているI2Cモジュールにより、R_IIC_MASTER_... の部分は環境に合わせて調整してください。
※ atan2f() / sqrtf() を使うため、math.h をインクルードします。
#include "hal_data.h"
#include <stdio.h>
#include <string.h>
#include <stdbool.h>
#include <stdint.h>
#include <math.h>
#define IMU_I2C_ADDR (0x68U)
/* ICM-42688-P Register */
#define IMU_REG_ACCEL_DATA_X1 (0x1FU)
#define IMU_REG_PWR_MGMT0 (0x4EU)
#define IMU_REG_GYRO_CONFIG0 (0x4FU)
#define IMU_REG_ACCEL_CONFIG0 (0x50U)
/* 0x1F から 0x2A まで読むので 12バイト */
#define IMU_RAW_DATA_LENGTH (12U)
/* 設定値 */
#define IMU_PWR_MGMT0_ACCEL_GYRO_LN (0x0FU)
#define IMU_GYRO_CONFIG0_100HZ (0x08U)
#define IMU_ACCEL_CONFIG0_2G_100HZ (0x68U)
#define I2C_TIMEOUT_COUNT (100000U)
#define IMU_LOG_INTERVAL_MS (500U)
#define IMU_RAD_TO_DEG (57.2957795f)
typedef struct st_imu_raw_data
{
int16_t accel_x;
int16_t accel_y;
int16_t accel_z;
int16_t gyro_x;
int16_t gyro_y;
int16_t gyro_z;
} imu_raw_data_t;
typedef struct st_imu_angle
{
float pitch_deg;
float roll_deg;
} imu_angle_t;
static volatile bool g_i2c_done = false;
static volatile bool g_i2c_error = false;
static volatile uint32_t g_ms_count = 0U;
static void uart_print(const char * p_text);
static bool imu_write_register_1byte(uint8_t reg_addr, uint8_t value);
static bool imu_read_register_bytes(uint8_t reg_addr, uint8_t * p_buffer, uint32_t length);
static bool imu_init(void);
static bool imu_read_raw_data(imu_raw_data_t * p_data);
static void imu_calc_pitch_roll(const imu_raw_data_t * p_raw, imu_angle_t * p_angle);
static int16_t make_int16(uint8_t upper, uint8_t lower);
static void print_imu_angle_data(const imu_raw_data_t * p_raw, const imu_angle_t * p_angle);
void i2c_master_callback(i2c_master_callback_args_t * p_args)
{
if (NULL == p_args)
{
return;
}
switch (p_args->event)
{
case I2C_MASTER_EVENT_ABORTED:
{
g_i2c_error = true;
g_i2c_done = true;
break;
}
case I2C_MASTER_EVENT_RX_COMPLETE:
case I2C_MASTER_EVENT_TX_COMPLETE:
{
g_i2c_error = false;
g_i2c_done = true;
break;
}
default:
{
break;
}
}
}
/* E2-02 / E2-03 で作った 1msカウンタ用のコールバック例 */
void timer0_callback(timer_callback_args_t * p_args)
{
if (NULL == p_args)
{
return;
}
if (TIMER_EVENT_CYCLE_END == p_args->event)
{
g_ms_count++;
}
}
void hal_entry(void)
{
fsp_err_t err;
imu_raw_data_t imu_raw;
imu_angle_t imu_angle;
uint32_t last_log_ms = 0U;
err = R_SCI_B_UART_Open(&g_uart0_ctrl, &g_uart0_cfg);
if (FSP_SUCCESS != err)
{
while (1)
{
;
}
}
uart_print("IMU pitch/roll start\r\n");
err = R_IIC_MASTER_Open(&g_i2c_master0_ctrl, &g_i2c_master0_cfg);
if (FSP_SUCCESS != err)
{
uart_print("I2C open error\r\n");
while (1)
{
;
}
}
err = R_IIC_MASTER_SlaveAddressSet(&g_i2c_master0_ctrl,
IMU_I2C_ADDR,
I2C_MASTER_ADDR_MODE_7BIT);
if (FSP_SUCCESS != err)
{
uart_print("Slave address set error\r\n");
while (1)
{
;
}
}
if (!imu_init())
{
uart_print("IMU init error\r\n");
while (1)
{
;
}
}
uart_print("IMU init OK\r\n");
while (1)
{
if ((g_ms_count - last_log_ms) >= IMU_LOG_INTERVAL_MS)
{
last_log_ms += IMU_LOG_INTERVAL_MS;
if (imu_read_raw_data(&imu_raw))
{
imu_calc_pitch_roll(&imu_raw, &imu_angle);
print_imu_angle_data(&imu_raw, &imu_angle);
}
else
{
uart_print("IMU raw read error\r\n");
}
}
}
}
static bool imu_init(void)
{
if (!imu_write_register_1byte(IMU_REG_PWR_MGMT0, IMU_PWR_MGMT0_ACCEL_GYRO_LN))
{
return false;
}
/* 加速度・ジャイロをOFFからONにした直後は少し待つ */
for (volatile uint32_t i = 0; i < 50000U; i++)
{
__asm volatile ("nop");
}
if (!imu_write_register_1byte(IMU_REG_GYRO_CONFIG0, IMU_GYRO_CONFIG0_100HZ))
{
return false;
}
if (!imu_write_register_1byte(IMU_REG_ACCEL_CONFIG0, IMU_ACCEL_CONFIG0_2G_100HZ))
{
return false;
}
return true;
}
static bool imu_read_raw_data(imu_raw_data_t * p_data)
{
uint8_t raw[IMU_RAW_DATA_LENGTH];
if (NULL == p_data)
{
return false;
}
if (!imu_read_register_bytes(IMU_REG_ACCEL_DATA_X1, raw, IMU_RAW_DATA_LENGTH))
{
return false;
}
p_data->accel_x = make_int16(raw[0], raw[1]);
p_data->accel_y = make_int16(raw[2], raw[3]);
p_data->accel_z = make_int16(raw[4], raw[5]);
p_data->gyro_x = make_int16(raw[6], raw[7]);
p_data->gyro_y = make_int16(raw[8], raw[9]);
p_data->gyro_z = make_int16(raw[10], raw[11]);
return true;
}
static void imu_calc_pitch_roll(const imu_raw_data_t * p_raw, imu_angle_t * p_angle)
{
float ax;
float ay;
float az;
if ((NULL == p_raw) || (NULL == p_angle))
{
return;
}
ax = (float)p_raw->accel_x;
ay = (float)p_raw->accel_y;
az = (float)p_raw->accel_z;
/*
* 最小実装:
* 加速度の生値をそのまま使って、重力方向から傾きを求める。
*
* roll : 左右方向の傾き
* pitch : 前後方向の傾き
*
* 符号や向きは、IMUモジュールの取り付け向きで変わる。
*/
p_angle->roll_deg = atan2f(ay, az) * IMU_RAD_TO_DEG;
p_angle->pitch_deg = atan2f(-ax, sqrtf((ay * ay) + (az * az))) * IMU_RAD_TO_DEG;
}
static int16_t make_int16(uint8_t upper, uint8_t lower)
{
return (int16_t)(((uint16_t)upper << 8) | lower);
}
static bool imu_write_register_1byte(uint8_t reg_addr, uint8_t value)
{
fsp_err_t err;
uint8_t write_buf[2];
uint32_t timeout;
write_buf[0] = reg_addr;
write_buf[1] = value;
g_i2c_done = false;
g_i2c_error = false;
err = R_IIC_MASTER_Write(&g_i2c_master0_ctrl, write_buf, 2U, false);
if (FSP_SUCCESS != err)
{
return false;
}
timeout = I2C_TIMEOUT_COUNT;
while ((false == g_i2c_done) && (timeout > 0U))
{
timeout--;
}
if ((0U == timeout) || (true == g_i2c_error))
{
return false;
}
return true;
}
static bool imu_read_register_bytes(uint8_t reg_addr, uint8_t * p_buffer, uint32_t length)
{
fsp_err_t err;
uint32_t timeout;
if ((NULL == p_buffer) || (0U == length))
{
return false;
}
/* 1) 読みたい先頭レジスタ番号を書く */
g_i2c_done = false;
g_i2c_error = false;
err = R_IIC_MASTER_Write(&g_i2c_master0_ctrl, ®_addr, 1U, true);
if (FSP_SUCCESS != err)
{
return false;
}
timeout = I2C_TIMEOUT_COUNT;
while ((false == g_i2c_done) && (timeout > 0U))
{
timeout--;
}
if ((0U == timeout) || (true == g_i2c_error))
{
return false;
}
/* 2) 指定バイト数だけ連続で読む */
g_i2c_done = false;
g_i2c_error = false;
err = R_IIC_MASTER_Read(&g_i2c_master0_ctrl, p_buffer, length, false);
if (FSP_SUCCESS != err)
{
return false;
}
timeout = I2C_TIMEOUT_COUNT;
while ((false == g_i2c_done) && (timeout > 0U))
{
timeout--;
}
if ((0U == timeout) || (true == g_i2c_error))
{
return false;
}
return true;
}
static void print_imu_angle_data(const imu_raw_data_t * p_raw, const imu_angle_t * p_angle)
{
char msg[200];
if ((NULL == p_raw) || (NULL == p_angle))
{
return;
}
snprintf(msg, sizeof(msg),
"ACC X=%6d Y=%6d Z=%6d | PITCH=%7.2f deg ROLL=%7.2f deg\r\n",
p_raw->accel_x,
p_raw->accel_y,
p_raw->accel_z,
p_angle->pitch_deg,
p_angle->roll_deg);
uart_print(msg);
}
static void uart_print(const char * p_text)
{
fsp_err_t err;
err = R_SCI_B_UART_Write(&g_uart0_ctrl, (uint8_t *) p_text, strlen(p_text));
if (FSP_SUCCESS != err)
{
while (1)
{
;
}
}
/*
* UART送信完了待ちの簡易版。
* 本格的にはUARTコールバックで送信完了を待つ形にする。
*/
for (volatile uint32_t i = 0; i < 1000000U; i++)
{
__asm volatile ("nop");
}
}8. コードの見方(今回大事なところだけ)
8-1. 今回追加した構造体
今回は、ピッチ角とロール角をまとめるために、次の構造体を追加しています。
typedef struct st_imu_angle
{
float pitch_deg;
float roll_deg;
} imu_angle_t;pitch_deg はピッチ角です。roll_deg はロール角です。deg は degree の略で、角度の「度」を意味します。
8-2. 加速度値を float に変換する
imu_read_raw_data() で読んだ加速度値は int16_t です。
int16_t accel_x;
int16_t accel_y;
int16_t accel_z;しかし、角度計算では小数を扱います。
そのため、計算前に float に変換しています。
ax = (float)p_raw->accel_x;
ay = (float)p_raw->accel_y;
az = (float)p_raw->accel_z;ここでは、単位変換までは行っていません。
生値をそのまま小数計算に使える形にしているだけです。
8-3. ロール角を計算する
ロール角は、次の式で計算しています。
p_angle->roll_deg = atan2f(ay, az) * IMU_RAD_TO_DEG;ここでは、Y軸とZ軸の加速度の関係から、左右方向の傾きを求めています。
ボードを左右に傾けると、重力がY軸方向にも見えるようになります。
その変化を使って、ロール角を計算しています。
8-4. ピッチ角を計算する
ピッチ角は、次の式で計算しています。
p_angle->pitch_deg = atan2f(-ax, sqrtf((ay * ay) + (az * az))) * IMU_RAD_TO_DEG;ここでは、X軸方向の加速度と、Y/Z方向の合成値を使って、前後方向の傾きを求めています。sqrtf((ay * ay) + (az * az)) は、Y軸とZ軸を合わせた大きさを求めています。
最初は式を完全に理解できなくても大丈夫です。
この記事では、次のように捉えれば十分です。
X軸方向に重力がどれくらい見えているかで、前後の傾きを求めている
8-5. atan2f() と sqrtf() について
今回、次の数学関数を使っています。
atan2f()
sqrtf()
そのため、先頭で次をインクルードしています。
#include <math.h>もしビルド時に atan2f や sqrtf に関するリンクエラーが出る場合は、数学ライブラリのリンク設定が必要になることがあります。
その場合は、e² studio のプロジェクト設定で、数学ライブラリをリンクする設定を確認します。
環境によっては、-lm の追加が必要になる場合があります。
8-6. 加速度のオフセット補正は今回は使わない
E3-05では、加速度にもオフセット補正を入れました。
ただし今回は、ピッチ/ロール計算に使う加速度は、基本的に 生値 を使います。
理由は、加速度には重力が入っているからです。
ピッチ/ロール計算では、この重力の向きを利用します。
もし静止時の加速度平均をそのまま全部引いてしまうと、重力成分まで消してしまい、傾き計算に使いにくくなります。
そのため、今回の最小実装では、
- ジャイロ補正:前回の考え方として理解する
- 加速度の重力成分:今回のピッチ/ロール計算に使う
と分けて考えます。
9. 実行結果
9-1. 水平に置いたとき
まず、ボードを机の上に置きます。
このとき、ログは次のようになります。
IMU pitch/roll startIMU init OKACC X= -120 Y= 340 Z= 16320 | PITCH= 0.42 deg ROLL= 1.19 degACC X= -130 Y= 360 Z= 16310 | PITCH= 0.46 deg ROLL= 1.26 degACC X= -110 Y= 330 Z= 16330 | PITCH= 0.39 deg ROLL= 1.16 degピッチ/ロールが完全に0にならなくても問題ありません。
見るポイントは、
- 値が極端に大きくないこと
- 静止しているときに大きく暴れないこと
- 少し揺れても、だいたい同じ範囲に戻ること
です。
9-2. 前後に傾けたとき
次に、ボードを前後に傾けます。
ACC X= 5200 Y= 200 Z= 15400 | PITCH= -18.65 deg ROLL= 0.74 degACC X= 8300 Y= 180 Z= 13900 | PITCH= -30.85 deg ROLL= 0.74 degACC X= 3000 Y= 210 Z= 16000 | PITCH= -10.61 deg ROLL= 0.75 deg前後に傾けたときに、主に PITCH が変わればOKです。
9-3. 左右に傾けたとき
次に、ボードを左右に傾けます。
ACC X= -100 Y= -6200 Z= 15000 | PITCH= 0.35 deg ROLL= -22.47 degACC X= -140 Y= -9100 Z= 13400 | PITCH= 0.49 deg ROLL= -34.18 degACC X= -120 Y= -3000 Z= 16000 | PITCH= 0.42 deg ROLL= -10.62 deg左右に傾けたときに、主に ROLL が変わればOKです。
9-4. 符号が逆でも慌てない
ボードを前に傾けたつもりなのに、PITCH がマイナスになる場合があります。
これは異常とは限りません。
符号は、
- IMUの軸向き
- ボードの向き
- 自分が前後左右をどう決めたか
- 式の書き方
で変わります。
今回の段階では、
傾けた方向に応じて、角度の値が変わる
ことを確認できればOKです。
10. ハマりポイント/原因と対策
10-1. IMU raw read error になる
原因
- I2C読み取りが失敗している
- E3-04の生値取得が安定していない
- レジスタアドレスを書いたあとに読み取りへ進めていない
- I2Cコールバックで完了イベントを受け取れていない
- タイムアウト待ちが短すぎる
対策
- まず E3-04 に戻り、加速度/ジャイロの生値が読める状態に戻す
ACC X= ... Y= ... Z= ...が出ることを確認するR_IIC_MASTER_Write()のあとに、完了待ちが入っているか確認するR_IIC_MASTER_Read()のあとに、完了待ちが入っているか確認するI2C_MASTER_EVENT_TX_COMPLETE/I2C_MASTER_EVENT_RX_COMPLETEを受けているか確認する
10-2. ビルドエラーになる
原因
math.hをインクルードしていないatan2f()やsqrtf()の関数名を間違えている- 数学ライブラリがリンクされていない
floatの変数宣言を追加し忘れているimu_angle_tの構造体定義を追加していない
対策
- 先頭に
#include <math.h>があるか確認する atan2f/sqrtfのつづりを確認するimu_angle_tの構造体定義があるか確認するimu_calc_pitch_roll()の宣言と定義があるか確認するatan2f/sqrtfのリンクエラーの場合は、数学ライブラリのリンク設定を確認する
10-3. ピッチ/ロールが nan になる
原因
- 計算に使っている加速度値が異常になっている
- I2C読み取りに失敗した値を使っている
accel_x/accel_y/accel_zが正しく更新されていない- メモリの扱いを間違えている
対策
- まず加速度の生値をログに出して確認する
ACC X/Y/Zが極端におかしくないか確認するimu_read_raw_data()が成功したときだけ角度計算するp_rawやp_angleがNULLでないか確認する- 読み取り失敗時は角度計算せず、エラーログを出す
10-4. 水平に置いても0度にならない
原因
- 机が完全に水平ではない
- IMUモジュールが評価ボードに対して少し傾いている
- センサ値にノイズや個体差がある
- ボードの向きと式の前提が完全には一致していない
対策
- 完全に0度にならなくても問題ないと考える
- まずは数度以内ならOKとする
- ボードを同じ向きで置いて、値が大きく暴れないかを見る
- 必要になったら、後の回で角度オフセットを考える
- 今回は「傾けたら値が変わる」ことを優先して確認する
10-5. 前後に傾けてもロールが変わる/左右に傾けてもピッチが変わる
原因
- ボードを完全に1方向だけに傾けるのが難しい
- IMUの軸と自分が考えている前後左右が一致していない
- モジュールの取り付け向きが想定と違う
- 式の符号や軸の対応が、実際のボード向きと合っていない
対策
- まずは1方向ずつ、ゆっくり傾ける
- どの方向に傾けると、どの値が大きく変わるかメモする
- 必要なら
accel_x/accel_yの使い方を入れ替える - 符号が逆なら、式の
-axをaxにするなど、後で調整する - 今回は厳密な軸合わせより、変化の確認を優先する
10-6. 値が細かく揺れて読みにくい
原因
- 加速度センサにはノイズがある
- 手で持つと微妙に揺れている
- 机やケーブルの振動が入っている
- 500msごとの表示でも、瞬間値をそのまま出している
対策
- ボードを机に置いて確認する
- 手で持つ場合は、できるだけゆっくり傾ける
- 完全に一定値にならなくても問題ないと考える
- 次回以降、移動平均などで値を少しなめらかにする
- 今回は、値が少し揺れることもセンサの特徴として確認する
10-7. 角度が期待より大きすぎる/小さすぎる
原因
- ボードの傾け方と軸の対応が合っていない
- 加速度値が正しく読めていない
- 上位バイト/下位バイトの結合を間違えている
int16_tへの変換が正しくできていない
対策
- E3-04に戻り、加速度X/Y/Zの生値が自然に変化するか確認する
make_int16(raw[0], raw[1])の順番を確認するACCEL_DATA_X1から12バイト連続で読んでいるか確認する- ボードを90度近く傾けたとき、主にどの軸が大きくなるか確認する
11. 今回わかったこと
今回の実験で大事なのは、
加速度センサの値から、ボードの傾きを数値として出せる ということです。
E3-05では、加速度には重力が入るため、補正には注意が必要だと説明しました。
今回は、その重力を使って、ピッチ角とロール角を計算しました。
今回できるようになったことは、次の通りです。
- 加速度X/Y/Zを使って傾きを計算する
atan2f()とsqrtf()を使ってピッチ/ロールを求める- 計算した角度をUARTログに出す
- ボードを傾けると、ピッチ/ロールの値が変わることを確認する
- 姿勢を「なんとなく」ではなく、数値として見られるようにする
今回の計算は、あくまで最小実装です。
手で動かしているときや、ロボットが振動しているときは、加速度には重力以外の成分も入ります。
そのため、今回の値をそのまま本格的な制御に使うには注意が必要です。
ただし、2足歩行ロボットの安全停止や姿勢補正に進む前に、
姿勢を数値化する入口 としては十分な一歩です。
12. 次回やること
次回は、E3-07 異常姿勢判定→安全停止 に進みます。
今回、ピッチ角とロール角をログに出せるようになりました。
次回は、その角度にしきい値を付けて、
傾きが大きすぎる → 異常姿勢として停止する
という形に進めます。
これにより、IMUの値を読むだけでなく、
ロボットを壊さないための安全停止の入口につなげていきます。
13. 関連リンク
- E3-00:I2C配線の“詰まりどころ”を先に潰す
- E3-01:I2C接続確認:0x68 に対して応答があるか確認
- E3-02:1レジスタ読み:WHO_AM_I を読む
- E3-03:連続読み:加速度X軸を2バイト読む
- E3-04:IMU生値取得:加速度とジャイロの生値を周期的に読んでログに出す
- E3-05:オフセット補正(簡易):静止時のズレを平均して引いてみる
- E3-07:異常姿勢判定→安全停止
- 基礎シリーズ:GNDとは?なぜ基準点が必要なのか?
- 基礎シリーズ:UARTログ入門
- 基礎シリーズ:タイマで周期処理
- 基礎シリーズ:C言語の型と数値(予定)
- 基礎シリーズ:センサと姿勢推定の入口(予定)